屋根葺き替え工事の注意点
屋根葺き替え工事で押さえておきたいポイントを3つお伝えします。
野地板

- 屋根面は上から屋根材、下葺材、野地板で構成されます。
- 野地板は主に厚さ12mmの構造用合板が使用されます。瓦葺きでは杉材のバラ板が使用されていることがあります。
- 雨漏りや結露により年数が経つと野地板が傷んできます。傷んだ野地板を放置しておくと雨漏りの原因となったり、雨漏りが酷くなったりします。さらに酷くなると小屋組みの構造材を傷めてしまいます。進行するにつれ修理にかかる費用も大きくなるので、早目の修理が望ましいです。
- 小屋裏に上って野地板の修理は傷んだ場所が特定できれば、屋根材により部分的な修理も可能な場合もあります。
- 野地板の損傷は、葺き替え工事に際して既存屋根材を解体撤去したときに判明することが多いです。大屋根の野地板の大部分が傷んでいる場合は構造用合板の重ね張り(増張り)を、下屋根や大屋根の部分的な傷みであれば部分的な張替えをします。
- 弊社では、屋根葺き替え工事の見積もりに際しては、別途費用として屋根材解体後に判明する最悪のケース(全面の構造用合板張り)にかかる金額をあらかじめ提示します。
- 注意が必要なのは、カバー工法では野地板の劣化を屋根上から目視では確認できないこと。野地板の部分的な張替え補修はできないことです。
- 杉材のバラ板を用いた瓦葺き屋根を他の屋根材(ガルバリウム鋼板、化粧スレートなど)に葺き替える場合は、既存の杉材の上に構造用合板を全面的に張る必要があります。
下葺材

- 下葺材は瓦などの屋根材の下に入り込んだ雨水を、下地野地板など木部へ通さないようにして、軒先まで流しきる役目を負っています。
- 屋根は屋根材と下葺材の2重の防水で家を雨水から守っていますが、最終的に雨漏りを防いでいるのは下葺材です。
- 下葺材は、一般的にアスファルトを材料としたアスファルトルーフィング、それにポリマー等を添加し機能を向上させた改質アスファルトルーフィング(ゴムアスルーフィング)を使用します。
- 経年により防水層の柔軟性が失われていくと破れやすくなり、下葺材が破れると雨漏りの原因となります。
- 柔軟性が損なわれるまでの期間を耐用年数と考えると、ハイエンドのもので60年程度、高品質なもので30年程度、汎用的なもので15年程度です。
- 下葺材の下地への固定方法は2種類あります。一つはステーブル留めという大型のホチキスのようなもので留める方法。もう一つは下葺材の片面が粘着面になっていて貼り付ける方法です。一般的にはステーブル留め、緩勾配屋根やカバー工法には粘着タイプを使用します。
- 下葺材は屋根材の下に位置するため、屋根材を残して下葺材のみを交換することはできません。下葺材の張替えには、必ず屋根材の葺き替えを伴います。下葺材を選ぶときには、屋根材の耐用年数との兼ね合いを考慮するのがよいでしょう。せっかく高耐久の屋根材を選んでも、下葺材が汎用的なものでは高耐久の意味が無くなってしまいます。
換気棟

- 熱い空気は上にあがります。家の中では昼の暖まった空気は最上部に向かって上り、逃げ道がないとそこ留まり続けます。真夏には、ときには家の上階には居られないほどの暑さになってしまいます。
- 熱くなりすぎた屋根は、夜になって外気温が下がると、屋根を境に内外に温度差が生じ、屋根の内側に結露が発生します。
- 換気棟は屋根裏の熱い空気を外に逃がします。
- 瓦は構造的に空気層と通気性を備えているため、屋根に換気棟などの換気システムを導入することはまれです。
- 化粧スレートやガルバリウム鋼板の屋根には、換気棟が必須と考えます。
新しい屋根材を選ぶ
瓦(陶器瓦)

陶器瓦は高温で焼成されるため、非常に硬く、強度が高いです。これにより、風雨や雪、紫外線などの自然環境に対する耐久性が向上します。また陶器は水や湿気を吸収しにくいため、腐食や劣化に強いです。重いことを除き、あらゆる点で最高の屋根材です。ただし、海の塩分を含んだ雨水が長年かけて瓦を浸食する塩害と、瓦の中の水分の凍結膨張による割れやクラックなどの凍害により、損傷することがあります。
三浦半島の沿岸部では、30年以上たった瓦屋根に塩害が見られるケースがあります。
瓦の特長
- 高い防水性…瓦自体が陶器であるため、吸水率が低く、雨水や湿気に強いのが特徴です。
- 優れた耐久性…陶器瓦は、高温で焼成されるため、非常に硬くて耐久性が高いです。耐久年数は50年以上に及ぶこともあり、風雨や紫外線などの外的要因に強く、変色や劣化がしにくい点が大きなメリットです。
- 防火性能が高い…陶器瓦は焼成された土でできているため、防火性能が非常に優れています。火災が発生した際にも燃えにくく、延焼を防ぐ効果が期待できるため、防火地域や準防火地域でも採用されやすい材料です。
- メンテナンスが少ない…陶器瓦は、陶器特有のメンテナンスフリーな性質を持っています。表面が滑らかで苔やカビが付きにくく、定期的な塗装や防水処理を必要としないため、長期的なランニングコストが低いです。
- 断熱性・遮音性…瓦自体の厚みと陶器の素材特性、空気層を形成する工法により、断熱性が非常に高く、夏場の太陽光の熱を内部に伝えにくいのが特徴です。また、遮音性にもたいへん優れており、雨音や外部の騒音を効果的に遮断します。
- 環境に優しい…陶器瓦は、自然素材である粘土を焼き固めて作られているため、製造工程で有害物質を出さず、リサイクルも可能です。また、長寿命であるため、廃棄物が少なく、環境負荷が低い材料と言えます。
- 高級感のあるデザイン…厚みのある瓦を多数並べて葺くため、立体感、重厚感がある高級な印象を与えてくれます。
- 瓦葺きの屋根にするためには、瓦の重量に耐えられる設計がされた建物でなくてはなりません。そのため瓦以外の屋根材から瓦への葺き替えは基本的にできません。
瓦の形状
F形(平板)
フラットな形状の伝統的な和瓦とは異なるシンプルでモダンなデザインです。スッキリとした直線的な外観が特徴のため、現代建築やモダンな住宅のデザインに調和しやすく、和風・洋風を問わず多様な建築スタイルに適応します。
J形(和形)
伝統的な日本の建築美を象徴するデザインで、棟の段積みや鬼瓦などの装飾的な特長を持っています。
S形(洋瓦)
スペインやイタリアのような南欧風のデザインで、機能的にも雨水の流れがスムーズ、耐風性が高いなどの特長を持っています。
化粧スレート

化粧スレートは、薄型で軽量な屋根材として広く使用されており、セメントと繊維を混合して作られた人工の屋根材です。天然スレート(石板)の風合いを模倣しつつ、コストや施工性を向上させたもので、さまざまな住宅スタイルに対応します。現在はケイミュー株式会社のみが生産しています。
化粧スレートの特長
- 軽量性…伝統的な屋根材である瓦に比べて非常に軽量です。
- コストパフォーマンス…化粧スレートは、コストが比較的安価な屋根材の一つです。製造が容易で、材料費や施工費を抑えられるため、リーズナブルに施工できるのがメリットです。多くの新築住宅やリフォームにおいて、コスト重視の選択肢として人気があります。
- 防火性…セメントが主な材料であるため、火に強く、燃えにくい素材です。このため、火災のリスクがある地域や、防火地域でも使用が推奨されます。
- 耐久性…化粧スレートはセメント系の素材でできており、適切なメンテナンスを行えば耐久性がある屋根材ですが、瓦や金属屋根などに比べるとやや劣る場合があります。
- 色褪せや苔の発生…経年劣化によって色褪せや苔の発生が起こりやすい点がデメリットです。
- 断熱性・遮音性…化粧スレート自体は比較的薄いため、断熱性や遮音性がやや低いという欠点があります。特に夏場は屋根の温度が上昇しやすく、室内の温度にも影響する場合があります。換気棟を取付けたり2重野地板構造などで、その弱点を補うことができます。
化粧スレートの種類
弊社でよく使用する化粧スレートを紹介します。形状はいずれも横葺きです。
- コロニアルグラッサ…30年間、色落ちせず、色10年保証のグラッサコートが特長です。
- コロニアル遮熱グラッサ…遮熱性の高い色のグラッサコートが特長です。上階の部屋が暑くて困っている方におすすめです。
- コロニアルクアッド…約10年に一度の屋根塗装が必要な汎用品です。
ガルバリウム鋼板

ガルバリウム鋼板の屋根材は、近年非常に人気が高まっている材料です。ガルバリウム鋼板とは、米国のベスレヘムスチール社が開発したアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板です。そのめっき組成は、アルミニウム55%、亜鉛43.4%、シリコン1.6%からなっています。
ガルバリウム鋼板の特長
- 耐久性と防錆性…ガルバリウム鋼板は、通常の鉄や亜鉛メッキ鋼板よりも錆に強く、長期間にわたって劣化しにくい特性があります。また現在では、マグネシウムを添加しての改良により、さらに防錆性を高めた製品が販売されています。
- 軽量性…ガルバリウム鋼板は非常に軽量です。
- デザイン性…ガルバリウム鋼板は、カラーバリエーションが豊富で、スタイリッシュな外観を演出できるのも魅力です。モダンなデザインからクラシックなものまで、幅広い建築スタイルにマッチします。またデザインの自由度が高いのも特長です。
- 耐震性と耐風性…軽量であることに加え、しっかりと施工されていれば、強風や地震などの災害にも強い屋根材です。
- 他の屋根材では対応できない緩やかな傾斜の屋根にも対応できます。ガルバリウム鋼板立平葺きであれば0.5/10勾配以上あれば可能。F形瓦や化粧スレートでは2.5/10勾配以上必要。
- 防音対策が必要な場合も…軽量な金属屋根材であるため、雨や雹などが直接屋根に当たる音が気になる場合があります。
- 断熱性が低いため必ず対策をしましょう。裏面に断熱材が付いた断熱性の高い製品を選んだり換気棟を取り付けるなど、結露対策をしっかり行いましょう。
ガルバリウム鋼板の種類
横葺き
- ガルバリウム鋼板を屋根の軒先に対して横方向に並べて設置する方法です。板金が横方向に連続することで、水平のラインが強調され、シンプルでモダンなデザインを実現できます。
- 化粧スレート屋根のカバー工法用の屋根材として最適です。
- 取付方法に、一般的な嵌合工法とデクラ社のインターロック工法があります。インターロック工法の場合、取外しや交換が容易にできます。
立平葺き
- 縦方向に長くガルバリウム鋼板を並べて施工する方法です。古くからある瓦棒葺きと同様の、屋根の軒先から上端まで455mmもしくは333mm間隔の継ぎ目が作る直線的でシャープなラインが特徴的です。
- 長尺の1枚板で軒先から棟までをカバーするため、防水性が非常に高く、緩い勾配でも対応可能です。
- 心木を用いる瓦棒葺きと違い、隣のガルバリウム鋼板とは嵌合式やハゼ締めで連結されます。
瓦棒葺き(桟葺き)
- 古くからある亜鉛メッキ鋼板屋根でも用いられた工法です。立平葺きと同様、縦方向に長尺のガルバリウム鋼板を並べて施工します。
- ドブ加工をした板と板を接続部の心木に固定し、心木の先端部をサンバナで包み、さらに心木を包み込むように合羽で包みこみます。
- 木製の心木が経年により腐食してしまうリスクがあります。
小波板(波トタン)
- 波形に加工された薄い鉄板を使用した屋根材で、昔から住宅や倉庫、工場などで広く使用されている形状の素材です。
- 小波板は、他の屋根材に比べて安価です。比較的簡単に施工できるため、コストを抑えたい場合に適した選択肢です。
- 遮音性能や断熱性能が低いことがデメリットです。
アスファルトシングル
主にアスファルトを含んだシート状の屋根材です。特に北米で広く普及しています。
アスファルトシングルの特長
- コストの低さ…他の屋根材(瓦や金属屋根など)と比較して、材料費や施工費が安価です。そのため、住宅のコストを抑えたい場合に適した選択肢です。
- 軽量で建物への負担が少ない…アスファルトシングルは軽量です。軽量なため、アスファルトシングルが劣化した際に重ね葺きが可能です。
- 他の屋根材と比べると耐用年数が短い場合もあるため、適切なメンテナンスが重要です。
- 防音性能…比較的防音性能が高い屋根材です。金属屋根材に比べると、雨音や外部の騒音を和らげる効果があるため、静かな室内環境を保つことができます。雨や雹が降った際でも、直接的な音が響きにくい点は居住環境に適しています。
- 耐火性…他の屋根材と比べると耐火性は劣ります。
- 断熱性…瓦や化粧スレートと比べると断熱性は劣ります。
ROOGA(ルーガ)
ROOGAはケイミュー株式会社(KMEW)の独自技術により開発された「高耐久ポリマー複合材料」でできています。この材料は、軽量でありながら強度が高く、耐久性や耐火性、耐候性に優れています。
ROOGAの特長
- 軽量…陶器瓦の約1/2程度の重量です。
- デザイン性…モダンな「ROOGA鉄平」と和風の「ROOGA雅」の2種類があります。
- 耐久性と防災性能…耐久性に優れた素材で作られており、長期間にわたって劣化しにくい特性を持っています。特に、紫外線や風雨による劣化が少なく、長寿命な屋根材として評価されています。また、台風や強風などにも耐える設計がなされており、飛散や破損を防ぐ効果があります。
- 耐熱性・断熱性…ROOGAは断熱性能にも優れた屋根材です。軽量でありながら、屋根材自体が高い断熱効果を持っているため、夏の暑さや冬の寒さを遮断し、室内の温度を快適に保つ効果があります。特に、屋根の表面温度が高くなる夏場でも、室内への熱の影響を抑えることで冷暖房効率を向上させ、エネルギーコストの削減にも寄与します。
- メンテナンスの容易さ…、耐久性が高いため、通常の使用環境であれば頻繁なメンテナンスが不要です。
- 他の屋根材と比べて工事費は高額です。
屋根材の性能比較
各屋根材の素材としての性能を◎「とても高い」、○「高い」、△「中程度」、×「低い」の4段階で比較しました。
個別の製品については各社独自の対策を施しているので、一概に屋根材ごとの性能を表わすのは難しいです。また建物を一体として考えた場合も見方が違ってきます。あくまで元の素材としての特性と考えてください。例えば、ガルバリウム鋼板の断熱性能・省エネ性能・防露性能を高めるために断熱材を付加したものがあります。また瓦の耐震性能×というのは単に重いためですが、建物全体として考えると屋根の重さに耐える柱や壁を要するため一概に低いとは言えません。

屋根は軽い方がいいって本当ですか?
- 建築基準法では「重い建物」も「軽い建物」もそれぞれの重さに応じて設計されているため、完成した家の耐震性は同じです。
- 重い分、柱や筋交い、壁などが多く、丈夫に設計されるので、耐用年数が長くなると考えられ、コストパフォーマンスは高くなります。
- またその重さにより耐震性の問題を指摘されてきた瓦ですが、2022年1月1日に新築時や増築時の瓦屋根の工事基準としてガイドライン工法が法制化され、瓦の緊結方法や釘の本数、種類などの最低基準が義務付けられました。これにより瓦屋根の耐震性能や耐風性能が大幅に強化されています。
- もしあなたの家が新耐震基準(1981年)以降の建物で瓦葺きの屋根なら、葺き替えの際に、重さは気にせず瓦を選ぶことができます。
- もともと化粧スレート葺きやガルバリウム鋼板葺きの「軽い建物」では、葺き替え時に瓦を選ぶことはできません。
1950年 | 建築基準法制定 | 【旧耐震基準】地震力を水平震度0.2に引上げ。木造は床面積に応じた壁量規定を導入(壁の量を定めた)。 |
1981年 | 建築基準法改正 | 【新耐震基準】倒壊など防止性能を確認する構造計算の追加。壁量規定・必要壁長さ・軸組の種類・倍率が改定。 |
2000年 | 建築基準法改正 | 構造計算では確認できない性能項目を明確化、「限界耐力計算法」も導入。木造住宅は筋交いを金物固定、地耐力に応じた基礎設計や偏りの少ない耐力壁配置が義務化。 |